自動化の意味

産業用機械に携わるならば考えなくてはなりません。

生産設備であれば,設備の使命は,
・生産性
・品質
の向上です。したがって,より早く,確実に良いものを生産できる設備があるならば,どんどん設備は更新されていきます。もちろん,財務的な視点から減価償却期間や更新方法などの細かい問題はあります。それはさておいて。

生産設備
1.人間が手で使うもの(いわゆる道具,工具)
2.半自動のもの(電動ドライバー,溶接機を人間が使う)
3.全自動のもの(〜製造機,多くの工作機械)
というように分類することができます。産業の成熟度合,あるいは業界の成熟度合,はたまた市場の度合の進行に伴って,一般的には1.→3.へと設備が更新されます。(そういう認識自体がやや問題があるのですが,話を簡単にするためにここでは端折ります。)

1.→3.へと更新される各ステップで,労働者は職を失います。特にいわゆる「単能工」は,あっさりクビを切られます。例えばベルトコンベヤで10人/5工程の部品加工設備があっとして,前3工程を自動化する設備を導入すれば,6人が職を失います。同じラインが複数あって段階的に導入をおこない,この6人が他の職場あるいは設備へ移動できるように考慮してくれる場合もあります。しかし実際には,昭和の不景気におこなわれたように多くの単能工が姿を消します。あるいは拡大時代ならば,設備導入は「更新」でなくて,「追加」でおこなわれるかもしれません。

今,設備機械を一所懸命,開発しているような人たちは,生まれた時から自動化ステップ3.です。だから,自分がやっつける相手は,ボロボロになった機械です。

だから気付かないのです。自分がやっている仕事は,手作業を楽にしたり,同じ人数でより多くの製品を生産するためのものではないのです。いわんや世界をよりよくするためのものでもないのです。玉のような汗をかいて,日の丸弁当を食って,やかんの麦茶をみんなで回し飲みしていた,自分達の祖父の世代の手仕事を時空を越えて奪っているのです。

私は実際にステップ2.で(言葉は悪いのですが)肉体労働をしている人たちが,競争相手の自動化設備にどんどん仕事を奪われていくのをこの目で見ました。「経営者」と呼ばれる人たちは「不況」「不景気」だから「合理化だ」と言って,あまりにもあっさりと人を切りました。今,平成不況で喘いでいる中小企業の経営者は皆そういうことをしてきたはずです。今度は自分達の番だということに気付かないのでしょうか。もしかすると「された側」なのかもしれません。

何か便利なものを世に広めて誰かから職を奪うのです。何かを便利にしたり高性能にしたりして,誰かから職を奪うのです。それが「ものつくり立国」の生存競争なんです。

あなたは誰かの生産性を倍にする機械(やソフトウェアかもしれません)を作って,あなた自身の仕事を半分奪うのです。だから他の誰も作れないものを作らなければならないのです。これは単なる生存競争です。昨日と同じ事をやっていては生き残れません。あなたが頑張ればがんばるだけ,誰かの仕事とあなたの仕事が減っていきます。

本気で「ものつくり」でやっていこうというなら,その問題について真剣に考えないとだめです。脳天気にやっても短期的には勝てますが中長期的には半分は大田区東大阪のおじさんとおなじ運命です。