人間をロボットに仕立て上げる

ちょっとした動機付けで人間は簡単にロボットになります。

巷で見かけるのが,いわゆる「事務的な人」です。

事務的な人がどういう信念を持っているか。
 ・決まりや規則をきちんと守りましょう
 ・決まりや規則を守れない人は怠慢
 ・決まりや規則の不備は自分の所為ではない
ただこれだけのことを刷り込むことで事務的なロボット人間ができあがります。

他にもロボット人間を作るコツがあるようです。
「お前がちゃんとできないのは,お前の気がたるんでいるからだ」
「ちゃんとできない原因はお前自身にある」
「ちゃんとできないのはお前だけだ。他の者はちゃんとできている」
誰でもできることをちゃんとできないのはおかしい」
どれも同じようなことを言っていますが,いろいろな言い方で繰り返し洗脳すればいいだけです。

人間を監禁・軟禁状態に置けば洗脳は簡単です。各種宗教団体の事件を通じてよくご存知のはず。ご記憶でしょうか。20年ほど前には宗教団体ではなく,いわゆる「自己啓発セミナー」の類による事件が散発していたことも。

一部の自己啓発の手法はいまだに生き残っています。中には手法にいささか問題を孕んでいるものも多くあります。

典型的なものは「とにかく大きな声を出させる」類のものです。例えば接客業や営業マンに発声練習をさせるというのなら,それ相応のボイストレーナの元で指導しなければならないでしょう。

実際には腹筋のトレーニングもなく,声帯を痛めないための考慮もない中でひたすら決められた文言を繰り返し叫ばされます。巧妙なのは,この文言の中に上であげたような洗脳メッセージが含まれていることです。

簡単なことですが,これに耐えられない人はクビになります。あるいは本当にそういう似非トレーニングが営業成績や売上に関係していると思い込んでしまう従順な人は成果が出ずに去っていきます。

実際,そういう似非自己啓発によって成果が出ていると主張している企業は散見されますが,高い成績を上げている現場の人ほど,「ばからしいけど会社の方針だから合わせてやっているだけで。実際には己の営業手腕で稼いでいる。」という認識です。ただ,それを公言するわけにも行かず,そもそも公言などしなくても構わないので黙っているのが当然です。つまりそういう柔軟な人はヘンテコリンな訓練など最初から関係なく成果を上げます。またヘンテコリンなものでもさして苦痛を感じずにいられます。さらに,この事実を隠すことで自分の優位性を確保し続けることができます。建前上は「大声を出していれば自然と成果がついてくる」ということになっているのですから,仕事をうまくこなすための情報共有なんておこなわれるはずがありません。そうやって個人の能力のみに頼る体制が整えられていくのです。そもそもデカイ声を出すだけで性格が直ったり,営業成績が上がるのであれば,誰も苦労しません。

無意味に従順あるいは考え無しの人はこの仕組みに気づかずに無為な努力を続け,やがておかしくなるのです。

最近,子供にやたらデカイ声で発声練習させる教授がテレビで良く出ていますが,あれはギリギリセーフだと思います。なんでかというと,かび臭い文章を読ませるからです。あれには洗脳の効果はありません。文言の内容を刷り込むことではなくて,音として刷り込むことや腹筋を鍛えたり,発声方法を身に着けることを純粋に狙っているからです。ただしあれを改悪して「僕はこうなりたい!」とか「わたしのこういうところを直します!」とか言わせるようになるとダメダメです。そんなことをして何かが好転するのは100人にほんの数人でしょ。他の多くの子供は「僕はみんなと同じようにやってもダメ人間なんだ」と思い込まされるだけです。そこの違いを分からない人が多いですね。

例外は,アニマル浜口親子のように不条理なプレッシャーに打ち勝つための訓練としての大声はアリなのかもしれません。しかしながら,誰でも真似できるものではないことは誰でも理解できますよね?