抜き取り検査

大量生産の現場においておこなわれる品質検査の頻度については大きく分けて,全品検査抜き取り検査に分けられると思います。

ふだん飲んでる牛乳やカンコーヒーは全品検査やってないでしょうね。全品検査しなくても品質が維持できるようにたゆまぬ努力が払われていることでしょう。そしてまた抜き取り検査で問題があればすぐさま影響を受けるであろうラインが即時停止して出荷を止めるすばらしい仕組みが構築されていることでしょう。

そうでなければ旧雪印ですな。

さて,抜き取り検査はラインを代表するわけです。対象のラインに問題があれば,抜き取り間隔以内に影響を封じ込めることができる。そういうシカケです。

そういう製造現場でアタリマエのことを徹底できてないホワイトワーカーの現場の多いこと,多いこと。

決裁権がないヒラリーマンやイタバサミマン(中間管理職)は,ハンコを押して,決裁権のあるおじさんやおばさんの所へ書類を回します。

おじさんやおばさんは高い報酬をもらっている代わりに,決済についての責任を負います。もちろん下っ端の監督責任も含まれるわけですが。

で,上にいけばいくほど大量の決済文書が回ってきますので,いちいち内容を確認していられない,という言い訳はよく分かります。下っ端(あえて部下とか書かない)との信頼関係の構築という意味でも重箱の隅をつつくようなチェックは避けるのでしょう。

しかしながら,1日に1000枚,2000枚の決済サインをする金正日総書記じゃあるまいし,せいぜい20,30枚の決済文書すらまともに目を通さず,新聞と週刊誌ばっかり読んでるアホウの多いこと。

さらに指摘しますと,「この立場になると1日の大半が会議でつぶれてしまう。文書に目を通していたら組織の運営が滞ってしまう。」とかもっともらしいことを言うわけです。しかしその実態は,会議では重箱の隅ばかりをつついて無駄に会議時間を浪費し,その会議の結果出てきた決済文書はノーチェックで通すという完全に矛盾した行動をとっておるわけです。

こういうことを木を見て森を見ず,とかいうレベルの話で片付けてはいけません。ホワイトワーカーの業務遂行の品質管理という視点が必要だと思うのです。

1日に100枚の文書にハンコを押すのにかかる時間はせいぜい30分くらいです。それが自分の仕事なら,さらに30分かけてそのうちの2,3枚の文書について軽く目を通せば宜しい。ひっかかったら,担当部署長〜担当者までまるっと全員呼び出してその場で事情聴取です。自分が出向いてもよいですが,呼び出し〜到着までの間にその他の文書にハンコを押す作業をパイプライン処理する方が望ましいでしょう。

1日に100枚の文書のうち2,3枚抜き取りして,どれも問題なかった。それを10日続けるとそのうち3回問題のある文書が見つかった。あとは確率統計の問題です。気長にこれを続けて,問題が発見される確率が下がっていくように下っ端を監督すればよいわけです。

問題のある文書を見つけたときにアホウは,該当部署の長を呼び出してキャンキャン叱りつけるだけです。そんなことやっても問題は解決しませんね。長さんは自分の下っ端に同じようにしかりつけます。強いストレスは一時的に効果を挙げますが(例;恐怖政治)中長期的に見ればマイナスじゃないですかね。

問題点を憎んで人を憎まず

QCサークルでは問題点を見つけて改善案を提案したら図書券もらえます。失敗を報告して再発防止案を出したらこれも図書券です。なぜそうするか説明しても理解できない人が多くて困ります。

失敗を叱られる場合,小さな失敗は隠蔽されますよね?当然です。あるいは失敗を失敗じゃないように取り繕いますよ。しかし悲しいかな人間は失敗するイキモノなんです。機械も失敗しますがね。

屋外でマッチ棒で火を点けるのはコツが必要ですが,チャッカマンなら子供にだってできます。つまりチャッカマンの方が失敗確率を減らせるわけです。その代わり電池式なら電池の管理をしなきゃいけない。だけど100人にマッチ棒で火を点けるワザを習得させるのと,たった2,3人がチャッカマンの電池の管理をするのとどちらが簡単確実ですか?という話なんです。簡単確実イコール生産性向上なんです。コスト削減なんです。

だからハンコを押すとき問題点を見つけたら,まずは叱り付けずにひたすらヒアリングするだけでよいのです。さらに言えば,なぜ失敗したかの原因を失敗した人の口から言わせることです。ここで注意するべきは「今後は気をつけます。」の類を認めてはいけないことです。(参照→「気をつけたってダメなんです」)

もし「睡眠不足で注意力散漫」だったら上司をしかりつけて,その日は早退させます。前日の超過残業の原因となった業務を分業させます。それをその場で決定させます。そんな簡単なことすら指揮できない無能野郎なら決裁権剥奪だと思いませんか?

勘の良い方ならお気づきかと思います。

決済文書の問題点について,

  • 問題点を解決するための権限行使の場面では決裁権限者が必要

であるが,

  • 問題点をあぶりだす作業には決裁権限者は不要

という点に。実際,書式の不備などは事務のネェチャンにやらせた方が早くて確実です。分業も可能ですね。文書のチェック作業は文書の量によって大きく変動しますので,そもそもチェックする権限者が常に固定人数であることも根本的な問題のひとつなのです。

ここでアホウは間違った方法をとります。それは信頼のおける部下に

  • 問題点のあぶりだしを任せてしまう

というものです。重要事項以外はキミに任せたから頼むよ,というわけです。あるいは複数人に分業させて競争させます。これやっちゃうと結局叱られるから失敗を隠す場合の話と同じです。都合の悪い話は上がってこなくなります。

チェックは,アルバイトの学生とか掃除のおばさんにでもやらせるのが一番良いのです。もしかしたらアウトソーシングするのが正解なのかもしれません。守銭奴コンサルに見せるくらいなら警備員のおにいさんに小遣いあげてチェックしてもらうのが実はベストかもしれませんよ。

部外者にそういう書類を見せれば自分たちが普段いかに,無駄なことに注意を払い大事なことに目を向けていないかを的確に指摘してくれます。掃除や警備の仕事をしているおじさんやおばさんはいろんな仕事を経験している場合がありますからね。鋭いツッコミすらあり得るのです。

製造現場では品質管理は製造部門から独立させるのが良いのです。なぜかというと,製造部門が自ら品質検査をおこなうと,結局小さな問題が隠蔽されるからです。警察官の不正を警察官自身が監査すべきでないのと同じことです。

だから,いくら決裁権限がある偉いサンだからといって,自分の組織の問題点をあぶりだすのに,自分自身がチェックして改善しようという考え自体がサッカリンのように甘すぎるということなのだと思ったり思わなかったり。

・・・世の中には「抜き取り検査してれば安心」とか本気が考えている人がいて驚くのですが,正しくは「抜き取り検査をして結果をラインに適切にフィードバックできる体制が整って」はじめて安心なのです・・・