トニーは、いつものように、丸テーブルの向かい側に座って、両手を握り合わせている。
ほら、ここを見ろ、お前さんのカネは全部、ここにあると書いてあるだろう。だけどお前さんは字が読めない。だから代わりに俺が預かってやってるだけだ。
まぁ銀行みたいなもんだ。いままでだってそうしてきただろう。
トニーは椅子をすこし引いて、座り直した。
トニー、おれはカネの心配をしているんじゃないんだ。ただ、俺に何かあったらその時には、そのカネを・・・あの人に・・・全部・・・
トニーは、”あの人”が誰なのかを少し考え、すぐにあの少女のことだと分かった。
あぁ分かっているとも。このカネは全部お前さんのものだ。それをどうするかはお前さんが決める。俺が今までお前さんにウソをついたことがあるか?
トニーはテーブルに身を乗り出した。
もちろん、トニーが俺にウソをついたりだましたりするはずが無い。
それはわかってるんだ。ただ、俺がいなくなったらあの人が困るんだ・・・だから・・・
二人は席を立って店の出口に向かった。トニーは2度肩を叩きながら、送り出した。
じゃぁな、次の仕事もしっかりやるんだぞ。
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