最近の仕事は妙だ。
馴染みのbotネット上の仕事リストに変化が現れたのは北京五輪の直後からだ。
この稼業もご他聞にもれず人余りで、依頼人どもが図に乗ってきているらしい。
糞の役にも立たない”MBA”な連中がこの稼業にも”TCO”なんぞを持ち込んでくれたおかげで、すっかり仕事がやりにくくなってしまった。
妙な仕事のサンプルみたいなものが今日もあふれている。
件名:『緊急事案』アパッチを落とす簡単なお仕事です。
RPGにてアパッチヘリを指定の車両(ワンボックスカーを予定)から撃墜していただきます。
必須:RPG実戦使用経験(2年以上)
尚可:白兵戦実戦経験(15人以上)
期日:即日~1ヶ月以内
報酬:$xxx,000
現場顔合わせ時に全報酬の20%を前払い振込みさせていただきます。成功時に残額と経費を精算致します。
残額支払いサイト:任務完了後翌々月末に指定の口座に振り込ませていただきます。
いったいぜんたい翌々月末支払いとはどういうことなんだ?依頼人との間に別のエージェントが噛んでいるに違いない。最近の依頼人は以前にも増してリスクに敏感になっているようだ。
そういえば昨日もbotネットのチャットルームで嫌な話を目にした。どこかのハイタッチとかいう民間軍隊がお抱えの傭兵連中をまるごと放り出したらしい。この稼業では実戦経験がものを言う。報酬の相場は右肩下がりだ。
依頼は減り、競争相手は増え、報酬は下がる。需要と供給の関係。
武器や装備はどんどん新しいのが沸いてくる。格闘技術もだ。コンピュータが普及した頃には相当数のベテランが引退するか、下請けの兵隊に成り下がったと聞く。
俺には俺の出来ることしかできない。いまさらトウシロウに混じって新しい武器の使い方や兵練を受けて、どうなるというのだ。
俺は今までずっとこの仕事をしてきた。
他のやつらが間違っているのか、俺がボケてしまったのか。
そうか、俺もそろそろ潮時というわけか。