不連続都市伝説シリーズ:ニポーンの労働生産性がG7最下位なのは現場のせい?

分母が水増しされているだけでは?

毎年のように「ニポーンの時間あたり労働生産性はOECD加盟38カ国中28位、G7で最下位(60.1ドル=約5,720円)」というニュースが流れてきます。

するとテレビのコメンテーターや意識の高いコンサル屋さんが、判で押したようにこう解説しはじめます。

「ニポーンのホワイトカラーは会議が長すぎる」
「ハンコ文化や紙の稟議書がDXを阻んでいる」
「現場の労働者がダラダラ残業しているからだ」

ほんとうにそうなんですかね?

10年前にも似たような話を見かけて、ホワイトカラーの生産性について書いたことがあります。以下をオオサンショウウオ。

不連続都市伝説シリーズ:ホワイトカラーの生産性はもっと上げられる

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ここで小学校の算数を思い出していただきたいのです。

「時間あたり労働生産性」というのは、要するにこういう割り算です。

時間あたり労働生産性 = 生み出された付加価値(分子) ÷ 関わったインゲンの総労働時間(分母)

たとえば、あるメーカーが150万円の予算を出して、1ヶ月(160時間)でちょっとしたソフトウェアなり設備なりを作らせたとします。

もし、実際に手を動かすエンジニャー1人が直接その仕事を受けて160時間で仕上げたら、時間あたりの付加価値はいくらでしょうか。

150万円 ÷ 160時間 = 9,375円/時間 です。

1ドル150円換算でも62.5ドル、購買力平価(1ドル≒95円)で計算するOECD統計のルールに合わせれば 約98ドル/時間 になります。

なんと、アイルランドやノルウェーに次ぐ世界トップクラスの生産性です。

#現場のエンジニャーは全然無能じゃありませんでしたな 笑

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ところが、ニポーンの不思議な商習慣ではそうなりません。

発注元の150万円の仕事が、実際に手を動かす末端のエンジニャーに届くまでに、なぜか3社ほど「看板だけ立派な会社」を経由します。

・元請けA社(150万円で受注し、右から左へ120万円でB社へ丸投げ)
・2次請けB社(120万円で受け、90万円でC社へ丸投げ)
・3次請けC社(90万円で受け、60万円でD社へ丸投げ)
・末端の作業者(手取り40万円で160時間かけて実装)

さて、このとき出来上がった成果物(ソフトウェア1個)の価値は、最初と同じ150万円のままです。1ミリも増えていません。

B社が30万円、C社が30万円、D社が20万円ずつ抜いていますが、マクロ経済の合計(GDPの分子)としては、単にお小遣いを分け合っただけで、生み出された付加価値の総額は150万円です。

では、割り算の「分母(総労働時間)」はどうなったでしょうか?

元請けA社の購買担当と自称PM、B社の手配師(営業マン)と事務員、C社のコーディネーター、D社の勤怠管理担当……。

「今月の稼働時間をエクセルに転記して請求書のPDFをメールに添付するだけ」のインゲンたちが、合計で320時間ほど働いたことになって、統計の分母にしっかり加算されます。

すると割り算はどうなるか。

150万円 ÷(実働160時間 + 伝票バケツリレー320時間)= 3,125円/時間。

さっきまで世界トップクラスだった生産性が、一瞬で3分の1に薄まりました。

濃いめのカルピスを作って出したのに、途中のウェイターが3人がかりで水道水をドボドボ足して3倍に薄めてから、「ニポーンのカルピスは世界で一番味が薄い!キッチンの料理人が無能だからだ!」と大騒ぎしているようなものです。

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子供のころにデークの棟梁の膝の上で習った「正しい外注(直間比のシェア)」と「外道のピンハネ」の違いについては、13年前に以下で書いたとおりです。

富の源泉’2013晩秋:ハイキック・ヒューイ

このカルピス水割り現象は、自称ITケーの現場だけではありません。

先日の厚労省の調査(労働力需給制度部会の資料)では、病院や介護施設が民間の人材紹介会社に払っている手数料だけで年間1,000億円を超えているそうです。

診療報酬や介護報酬をせっかく引き上げても、現場の看護師さんや介護士さんの給料にはならず、お祝い金をエサに短期離職と再転職をループさせる口入屋の売上(=外車のローンと都心のオフィス家賃)に消えていると医師会が悲鳴を上げていました。

それでも医療や介護の口入屋は、転職したときに「1回ポッキリ(年収の2〜3割)」抜くだけで、これだけお上から叩かれています。

※どこかの業界には、仕様書も書けず完成責任も負わないのに、他人の頭数を貸し出して「毎月ずっと4割5割」を定額サブスクで抜き続ける夢のような商売があるそうですが、まさか令和のニポーンでそんな偽装請負が野放しになっているわけないですよね。

もし本当にニポーンの労働生産性をG7トップに引き上げたいなら、現場に生成AIのセミナーを受けさせるより先に、伝票に水道水を足しているだけの口入屋を商流からバイパスして、実際に手を動かす人と直接契約すれば明日にも解決する気がします。

→それをやると、なぜか発注側の購買担当や現場マネジャーが猛反対する理由については、また別の機会に。

ツイッキー:

公正取引委員会も2022年のソフトウェア業下請実態調査(報告書PDF)で「実質的な作業を行わないにもかかわらず中間マージンを搾取する中抜き事業者」と名指ししていましたが、名前が「下請法」から「受託中小企業振興法」に変わったら、水道水の量は減るんでしょうかね。

脚注:

求職の申込みの勧奨については、求職者が希望する地域においてその能力に適合する職業に就くことができるよう、職業紹介事業の質を向上させ、これを訴求することによって行うべきものであり、職業紹介事業者が求職者に金銭等を提供することによって行うことは好ましくなく、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて金銭等を提供することによって行ってはならないこと。なお、自らの紹介により就職した者に対して2年間は転職勧奨を行ってはならないことと併せ、求職者への金銭提供を契機とした過度な転職誘引や短期離職の防止が図られている。

厚生労働省:医療・介護分野における職業紹介事業の適正化 / 労働力需給制度部会資料

また、アンケート調査及びヒアリング調査においては、実際の業務を行わない中間業者の存在を問題視する指摘が多くみられた。多重下請構造の下、商流上は形式的に関与するものの、実際には何ら業務を行うわけでもないのに利益を上げている者(いわゆる中抜き事業者)が存在することは、不必要な多重下請構造の多層化を進め、発注者と受注者との間の情報伝達の混乱を引き起こすなど、問題の発生を誘因又は助長するおそれがある。したがって、取引の適正化を図る観点からは、このような実質的な業務を伴わない中間事業者が介在することの合理性について、発注者を含めた取引当事者において検証されることが望ましい。

公正取引委員会:ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書(報告書PDF 第3章「多重下請構造の実態と問題点」)

りんくる:
・中抜き体質
・あくどい人月人出しビジネスがなくならない理由
・平均以下の仕事