地元に帰りたくない人

立ち飲み串カツ屋で小耳に挟んだ話です。

 

男が言います。

 

   

オマエサァ、なんでそんなに実家に帰らないんだ?最低でも年に2回は帰ってやれよ。

   

ガキの頃からの地元のトモダチとかもいるだろーしさ。

   

同窓会だってあるだろー?

 

もう一人の男の長い講談。

 

   

そりゃいるけど、2度と会いたくないね、あんな連中とは。

   

カネに困れば万引きはするし、マージャンやるとなれば金持ちの気の弱いやつを呼んできてカモに仕立てて有り金全部巻き上げる。持ち金を超えて、貸しまで作る。ちゃんと連絡帳のスミに、隠語で書くんだぜ。やぶって捨てられないようにな。

   

他にも言葉にするのもはばかられるようなことにも手を染めてた。よくあんなことをしておいて、いけしゃぁしゃぁと同級生同士でケッコンしました、娘が生まれますなんて葉書を送れるものだと思ったね。お前の家族が同じ目に遭ったらどういう気分になるんだ?って聞いてみたいもんだ。(小声で:これで分かるだろ?)

   

俺はそういう話を後から知った。最初は伝聞だったが、本人がそういう話を匂わせて、酔って自慢げに話しているのも何度か聞いた。俺は同じグループに居たわけで、事情を知ってるほかの人間やオトナからすれば同類だと思われているわけだ。

   

そのことを考えただけでゾっとする。

 

   

悪いことに手を染めた連中が群れを成すのは、自分らがやったことを仲間がばらさないように監視するためで、強制的に運命共同体を形成するわけだ。盗みはAグループ、賭けはBグループ、徘徊はCグループと目的別に小グループにわかれてやるわけだな。全部同じグループでやるとやばいときに芋づる式になっちまうのを避けるためだ。俺はAグループの目隠し役に知らない間に仕立てられてたわけだな。

   

そんな連中が大人になって、地道で堅実な商売をやるわけがない。最初から人の財布に手を突っ込むことしか頭にないわけだな。

   

歳を取ってくれば同じような若い連中の面倒見の良いおっさんになるわけだが、自分の手を汚さないようになっただけのこと。

 

最初の男がうめきながら言います。

 

   

うぐぅ。いったいどんなとこなんだそれ。ありないだろ。

 

冷めた串カツを取り皿の上でこねくり回しながら応えます。

 

   

まぁいいじゃないか。無駄話が長くなったな。おれはもうあんな連中とは付き合わず、まっとうに生きるんだ。

   

ところで、こないだお前に見せた大森のマンションの件なんだが、先方が早く売りたがっているらしい。俺が紹介したあの業者が今月中に決めるなら手数料を負けてもいいと言ってる。

   

とにかく早めに返事した方がいいな。スパっと決めちまえよ・・・