対談シリーズ:統合者

(previously on DIALOGUE)

創造主から”上”への接見の機会を得た我々は、”上”つまり統合者とのビデオチャットによる対話を試みたのであった・・・

統合者は、やぶからぼうに対話の趣旨について説明を求めてきました。そして、「シスコのWebExはやっぱりクソだな。見栄えと知名度だけでちっとも安定しない・・・この接続もいつ音声のみにフォールダウンするか分かったものではない。ので、手短にお願いします。(笑)」と急かされたのです。

 

Q:えー。このシステムで何をしたかったんでしょうか。

A:えーと。要件定義の資料は見ていないのかな?

 

Q:と、おっしゃいますと?

A:我々は確かに、必要なものをかき集めてシステムを作り上げた者の一部です。ですが私もこのシステムに関しては前々々々々・・・任者から綿々と引き継がれた保守についてしか明るくないんですよ。なのですべての要件を暗記しているわけでもないんですな。

 

Q:少なくとも私はそのような資料は拝見したことがありませんが?

A:あ~。無駄に情報漏洩に敏感になって、『本来は末端でも参照すべき資料を隠す傾向』が増長されてしまっているのかもなぁ。

 

Q:創造主さんにお願いすれば、私もそのような資料を拝見することができるものなんでしょうか?

A:どうかなぁ。多くを知れば多くのことができるってわけでもないですからなぇ。

 

Q:あの。私は資料を読みたいわけではなくて、「このシステムで何をしたかったのか。」を知りたいだけなのですが。

A:こういう話は理解してもらえるかな。私がひとり「こうしよう」と意図を持ってこのシステムを作ったのだとしたら、その質問に答えるのは簡単ですな。ですが、もしあなたが仲間と一緒に10人で話し合って「こんな風にしよう」と意図をもって何かのシステムを作ったのだとして、10人全員の「意図」についてあなたは答えられますか?例えばあなたの意図のうち、他の9人の反対によって取り上げられなかった部分もあるわけです。それもあなたの意図になりますぅ?

 

Q:最終的に仕様書にまとめられているものが「洗練された意図の集合体」というか、最大公約数というか・・・そういうものではないんですか?

A:なるほど。ただしそれは我々が求められた要件をまとめて搾り出した「われわれの意図の集合」であって、求めた者たちの「意図」とは乖離してますからね。しかもそれは一般論ですし、このシステムはもうちょこっと事情が特殊なんですなぁ・・・

 

Q:あ、あの。どんな風に特殊なんでしょうか?

A:どんなシステムも同じものはひとつもない。どれも特殊です。ですが、この場合は特殊な特殊なんですなぁ。でもまぁ特殊なものの中の特殊くらいなら、別にそれほど特殊ではないかもしれませんですなぁ。

 

途中で映像が切れて、モニターには吊橋のロゴが点滅表示されました。音声はまだつながっているようでしたが接続は不安定になってきました。

 

Q:あ、あの・・・

A:とりあえず、役に立つかもしれない資料をアクセス可能にしておきますから、好きにご覧ください。ここからさきは亡霊との対話しかありませんよ覚悟してください・・・私はこのシステムは、可能な限り単純化したシステムで可能な限り複雑なシステムを動かすことができるかどうかの実験の一部だと理解しています・・・単純なのでいくらでもスケールする。上にのっかった複雑なシステムに影響なしでスケールする。いつまでも持続させられる・・・あくまで私が保守を通して感じた亡霊たちの意図の解釈でしかありませんですがなぁ。ピロリン(切断音)。

 

こうして統合者から”亡霊たちの意図(断片集)”へのアクセス権が与えられたのです。(つづく)

リンクル
対談シリーズのページ