既決・未決・保留!
組織内を紙ベースの書類が回っていきます。
下っ端が作成した稟議書を、まわします。
主任がハンコを押して、
係長がハンコを押して、
課長が、副部長が、部長代理が、部長が、専務、常務が(以下省略)
10個くらいハンコをもらう旅を経ます。書類を運ぶのは組織内郵便です。
郵便は少ないところだと、1日1便です。
例えば1日2便の社内郵便の組織では、10個のハンコをもらうのに5日(5営業日)くらいかかります。
急ぎの場合はいろいろオプションがあります。
下っ端が自ら書類を持ってハンコもらい行脚に出る。
書類に「特急」や「緊急」のハンコをつけてもらうと、エロイ人たちが自ら書類を運んでくれる。(ただし、急ぎが多すぎるとキューにたまる。)
いきなりいちばんエロイ人にハンコをもらう。(ナカヌキされた人から睨まれるリスクあり)
さて、もらう必要のあるハンコの数が10個の会社と、1個の会社で、会社全体のスループットは異なるのでしょうか。
パイプラインあるいはベルトコンベヤ方式を理解している人なら、分かりきっていることだと思いますが、組織のスループット(=生産性)にハンコの数は関係ありません。
スループットは最後のハンコを押す係りの人、例えば常務取締役が社内郵便の便の間に何個ハンコを押すかで決まるからです。
ハンコを10個押さないといけない会社で社内郵便が1日1便、すべての決済を社長がおこなうとすると、社長が1日に100個ハンコを押せば、その会社のスループットは100件/1日です。
一方ハンコは1個だけで済む会社なら社内郵便はいらないわけですが、同じくすべての決済を社長が行う場合、社長が1日に100個ハンコを押せば、その会社のスループットは同じ100件/1日です。
しかし世の中には、
ウチは典型的なお役所仕事で、ハンコが20個もいるんだよ。仕事の回りが遅くて。
と嘆く人が多数います。
組織全体の稼働率が高ければ、ハンコの数は仕事の速い遅いとは関係ありません。
時折、
社内郵便が1日1便だから、うちは仕事が遅いといわれるんだ!
1日4便に増やそう!
などと赤いタスキと鉢巻をして暴れまわる頭のおかしい人が出てきます。
郵便を早くしても、スループットは変化しません
「仕事が遅い」と嘆いている人は自分が出した書類が戻ってくるのが遅いと言っているだけで、組織のスループットとは関係がないのです。
郵便を早くするためにコストと人員を割くほうが間抜けだと利口な人はすぐに気づきます。
さて、現実にはハンコの数が多いと、本来発揮できるはずのスループットが発揮されない潜在リスクは多数あります。(パイプラインのストール要因)
例えば以下のようなもの。
中間管理職がハンコを押すのが遅いと全体のボトルネックになる。(下っ端は社長が遅いと思い込んでる)
出張や休暇による不在で書類が滞留する。(権限の委譲ルールが不足)
これらはハンコの数が多いほど影響が大きくなります。ハンコの数が多いとスループットに影響する場合もあるということです。
また、迅速なレスポンスを求められる顧客対応などでこのやり方を貫くとクレームの山になるでしょう。権限の委譲が必要となります。「上のものに許可を取って・・・」と言うだけで火に油ですので。
スループットを向上させるためには、エロイ人を机に縛り付けて、1日あたりに押すハンコの数を監視していればよいのです。あるいは同じ権限を持つ管理職を2倍3倍に増やして(つまりスーパースケーラ)、1日当りハンコ押し能力(SPD=stamps per day)を向上させればよろしい。あるいは権限をどんどん委譲して、人数の多い下級管理職で現場で決済できるようにすればもっと簡単です。(分散化)
さて2009年の実績でトヨタのプリウスは410,708台生産されています。パイプラインやベルトコンベヤやスーパースケーラが理解できない人は、
410708(台)÷365(日)≒1125(台/日)
1125÷24(時間)≒47(台/時間)
と計算して、
トヨタは車1台を2~3分で生産するために、ハイパーロボティックオートメーション設備を1兆円で建設したらしい。
さすがトヨタ生産方式!
などとトンチンカンなことを言い出すのです。
実際プリウスをばらばらの部品から組み立てるためにかかる時間(=リードタイム)は数日以上かかると思われますし、部品を孫部品から生産するのにかかるリードタイムや、材料から加工するリードタイムまで加えるとゆうに数ヶ月はかかると思われます。
在庫切れで数ヶ月待ちの状態とはそういうことです。
長い長いパイプラインの上で仕事を回している組織なら、パイプラインを停めるときは全体一斉で停めるのがベストであることは言うまでもありません。
夏休みはみんなで一斉に休むのが正解というわけです。では良い休暇を!
(つづき)